倉吉先輩の提案通り、下の階に続く階段の前を通り過ぎて、部室の反対側にある図書室に足を運んだ。
ガラッと部室よりも滑りのいい引き戸を開く。カウンター奥に座っていた西園くんと、その傍のテーブル席に座っていた夏恵が、ほぼ同時に顔をこちらに向けた。
「美夜ちゃん? 部活はどうしたの?」
目をぱちくりとさせる夏恵の名前を呟くと、彼女は薄っすらと微笑んで手招きする。私は真っ直ぐテーブル席へと歩き、夏恵に勧められるがままに彼女の隣の席に腰を下ろした。
夕焼け色に照らされた図書室には私達三人しかいないようで閑散としており、遠くから吹奏楽部の合奏が聞こえてくる。
まるでここだけ時間の流れも遅くなっているような、ゆったりとした雰囲気が心地よかった。
「俺、司書さんに用があるんだった。しばらく奥に行ってるから、貸し出しの手続きが必要な時は呼んで」
気を利かせてくれたのだろう。西園くんは席を外し、赤いマフラーを揺らしながらカウンター奥の部屋へと入っていく。
少しの沈黙の後、夏恵は体の向きを変えて覗き込むように私の顔を見る。
「美夜ちゃん、今日は一日中酷い顔してるよ。何かあったの?」
「……そんなに暗い顔してた?」
「うん。なんかずっと上の空で、失恋しちゃった女の子みたい」
勘が鋭い夏恵の「失恋」という言葉に、胸がズキッと傷んだ。
(私は……失恋、したのかな)
そう自問自答すると、じわりと目に透明な膜が張った。
私はこんな体質だから、恋愛なんてできるはずがない。
今までそう自分に言い聞かせてきたから……私は、認めたくなかったんだ。
もうずっと前から私の首にも赤色のマフラーが現れていて、倉吉先輩に、恋していたことを。
両思いなのだと勝手に期待して、勝手に自惚れていた自分を。
ぽたぽたと涙が零れ落ち、テーブルに小さな水溜まりが生まれていく。