日曜日。私は穂乃花と待ち合わせをして、最寄り駅のショッピングモールに訪れていた。

 高校に入学すると同時に髪を明るく染めたという穂乃花は、以前と印象もだいぶ変わっていて、カジュアルなコーディネートがとてもよく似合っていた。

 しかし、穂乃花はそんな容姿にそぐわない曇った表情で、電話でも説明していた話をもう一度口頭で語り出す。

「去年の秋頃、従妹の家が再婚してさ。今大学二年生の……柚香(ゆずか)さんって人がいるんだけど、その人に新しい母親と二つ年下の義弟(おとうと)ができたの。でも、柚香さんってその、凄く我が強いっていうか……好きな人が思い通りにならないと暴力を振るったりする、DV気質みたいなところがあって」

 穂乃花の神妙な声は徐々に低くなっていき、彼女は歯痒そうにミルクシェイクのカップを握り締める。

「お正月に祖父母の家で顔を合わせる機会があったんだけどね。柚香さんの義弟さん、室内でも防寒具を外そうとしないの。祖父に言われてようやくコートを脱いだんだけど、その時偶然服の袖が捲れて……拳くらい大きな、赤黒い痣が見えたんだよね。彼はぶつけただけだって言ってたんだけど、釈然としなくて、注意して彼のことを見てたの。そしたら……なんか、やたらと柚香さんのスキンシップが激しくて。二人ともそれなりの年だし、兄弟の仲とはいえど、そこまでするのかなって思って、それで……」

「柚香さんが、その義弟さんにDVをしているんじゃないか、って穂乃花は考えたんだね」

 私が確認するように聞くと、穂乃花は深々と頷いた。

 あの夜、穂乃花は電話で「柚香さんが義弟さんに恋愛的な意味での好意を寄せているのか、美夜の目で見て確かめてほしい」と私に頼み込んだ。

 このように、一歩間違えれば事件に関わるような疑惑を抱えて人の好意を見るのは初めてだった。私はただ遠目でマフラーの有無を確認すればいいだけなのに、なんとなく他人事には思えず、今朝からそわそわと落ち着かない。

 それは当前だが穂乃花も同じで、しきりに周囲を歩く人々の顔に視線を向けていた。

「柚香さん、週末は必ずといっていいほど義弟さんを連れてこのショッピングモールに来るの。多分、義弟さんを彼氏に見立てて、周りに見せびらかしたいんじゃないかな」

 モール内の広場のような開けた場所に着き、不規則に設置されたテラステーブルの一つに、穂乃花と向き合う形で座る。