ドライヤーで髪を乾かし終えると、私はスマホを握ってベッドに腰を下ろす。

 ロック画面を外すと自動的にSNSのアプリが開かれて、穂乃花の名前と二件のメッセージが映し出される。

 お風呂に入る前に、穂乃花から送られてきたメッセージには既読をつけた。そうでもしなければ、このままいつまでもずるずると先延ばしにしてしまいそうな気がしたから。

 一度深呼吸をした後。私は覚悟を決めて画面をタップし、スマホを耳に当てた。無機質なコール音が響き、胸の鼓動が早くなる。

 開口一番、なんて言おう。そもそも、穂乃花が出てくれなかったらどうしよう。

 そんなことを考えている内に、永遠と続くかに思えたコール音がプツッと切れる。

『もしもし』

 電話越しの声は以前の穂乃花のものとは少し異なっていたが、間違いなく彼女の声だった。

「あ……私、だけど」

 強張った声でそう告げ、お風呂上がりなのにやや汗ばんだ手のひらで部屋着の裾を握り締める。

『久しぶり』

「うん、久しぶり」

『中学以来だね。元気にしてた?』

「まぁ、……うん」

 互いに相手の気持ちを探り合うような、ぎこちない会話が続く。

(違う。私はまず、謝らないと。あの時、穂乃花に嘘をついたことを)

 心の中で自分にそう叱咤され、ごくりと固唾を呑む。開いた唇は、自分でも震えているのがわかった。

「あのさっ」

『あの時はごめん!』

 私が言おうとしていた言葉を、電話の奥の彼女が一言一句違えずに口にする。唖然とする私に向けて、穂乃花は感極まった声で続けた。

『私、どうかしてた。美夜は悪くないのに、自分でもそうわかってたのに、八つ当たりして……本当にごめんっ』

 穂乃花の声を耳にしながら、開いた口を静かに閉じる。目頭が熱くなり、無意識に瞬きの回数が増えた。

「私も……」

 視界が歪み、手の甲で目元を擦った。そして、長い間伝えられずにいた、ずっと伝えたかった言葉を告げる。

「私も、ごめん。……ずっと、謝りたかった。私の方こそごめんね……。連絡くれて、本当にありがとう」

 見えていないとはわかっていたが、電話の先で安心したように息をつく穂乃花に向けて、胸の奥から湧き出てくる感情を表すように微笑んだ。