数時間電車に揺られ続けて、ようやくたどり着いたのは大阪。
「はい、奈緒ちゃんの分」
 ていねいに切り分けられたお好み焼き。
「ありがとう」
 宿に荷物を置いた後、とりあえずご飯ということで連れ出され、やってきたのはこのお好み焼きのお店。
「どうしてこのお店を?」
「せっかくなら、名物を味わうべきかなと」
「普通に観光も兼ねて?」
「そうそう、せっかくの旅なんだから」
 正直、一日かけての電車旅、疲れるし、お尻は痛くなるし、大変だったけど。数年分。私たち二人の空白期間を埋める為の会話を紡いでいく時間としては、足りないぐらい。電車に乗っている間、ずっと話しっぱなしだった。月野ちゃんが過去の話題を出さなくなるにつれて、会話は弾んでいって。乗り換えを一本忘れそうになるほど盛り上がって。
「さあさあ、早く食べてようよ。冷めはしないかもだけどさ」
「うん」
 お皿にとったお好み焼きを一口。
「あ、美味しい」
「でしょー」
「月野ちゃん、特に調べたりもせずにこのお店に入ったけど、詳しいの?」
「ぼちぼち。大阪は関西方面へ旅する時によく拠点にするからさ」
 なるほど、流石はプチ放浪ガール。
「旅をしているとね、色々な物が見えてくるよ」
 月野ちゃんはトントンと、鉄板をベラで叩く。
「例えばこれ。昔は自分で焼かなきゃいけないと思って、お好み焼きのお店に入るのを躊躇していたんだけどさ。今どき大体の店が焼いてくれるか、頼めば喜んでお店の人が全部やってくれる。ちょっとお話すれば簡単におまけやサービスまでしてくれるしさ」
「それは月野ちゃんが可愛いからじゃない?」
「マジで?」
「マジで」
 少なくとも、サービスと可愛いという点に関しては。
「それは得していたね、ラッキー」
 顔だけ見れば、他に可愛い子はいるかもしれない。だけど月野ちゃんは愛嬌がある、それは人を惹きつける為の重要な要素。月野ちゃんと陽子ちゃんが持っていた、私が憧れていたもの。
「そういえば、明日はどんな予定なの?」
「えっと、バスで移動。とりあえずお昼間のバスを予約してあるから」
「目的地は?」
「死体処理だから、山奥に決まっているよ」
 まだその話を続けるんだ。冗談、だよね? それとも死体処理という言葉に、何か意味があるのかな。
「とにかく今はご飯。食べたら帰って休む」
「そうね」
 口にお好み焼きを運ぶ。お皿に乗せたお好み焼きは、少しだけ冷めてしまっていた。