本当は、俺たちの仕事なんてない方がいいに決まっている。だが世界……というよりは世間が事件を起こすから刑事の役割は無くならない。恐らく一生。仮に人類の技術が高度に発達して、ありとあらゆる犯罪が起こらなくなったとしても。何かしらの形をもって、真の意味での平和など訪れない。
「あ、さっきドーナツ屋で買った時に貰ったんですけど。フィヨルドさんいりますか?」
「いらん。割引券ならお前使えよ」
「じゃなくて、この劇場の優待券みたいです。提携でもしてるんですかね?」
チケットのような大きさの長方形、深紅の髪が二枚手の中で揺れている。【次回の定期公演、大切な方と一緒にお越しください】と印刷された文字が踊る。目の前にそびえ立つ大きな劇場が、ふっと俺たちを嘲笑うように巨大化した気がした。
現実の結果にしか興味のないお前にはわからないだろう、想像力から見放された大人に何が分かる、と。
―この世界にも来てほしいな
―俺が犯人、とは考えないんですね
駐車場のパトカーに乗り込む間際、もう一度だけ振り返る。
「考えておく」
古びた劇場で誰かが静かに、だが確かに笑った。
『The Box』Fin
「あ、さっきドーナツ屋で買った時に貰ったんですけど。フィヨルドさんいりますか?」
「いらん。割引券ならお前使えよ」
「じゃなくて、この劇場の優待券みたいです。提携でもしてるんですかね?」
チケットのような大きさの長方形、深紅の髪が二枚手の中で揺れている。【次回の定期公演、大切な方と一緒にお越しください】と印刷された文字が踊る。目の前にそびえ立つ大きな劇場が、ふっと俺たちを嘲笑うように巨大化した気がした。
現実の結果にしか興味のないお前にはわからないだろう、想像力から見放された大人に何が分かる、と。
―この世界にも来てほしいな
―俺が犯人、とは考えないんですね
駐車場のパトカーに乗り込む間際、もう一度だけ振り返る。
「考えておく」
古びた劇場で誰かが静かに、だが確かに笑った。
『The Box』Fin