エピローグ

 目の前の男があまりにも満足気に笑うから、どうすればいいんだと途方に暮れた。それを口に出すのも億劫だったので大きなため息を代わりに吐いておく。
 最初、ここに腰を下ろした時には太陽が高い場所に位置していた気がしていた。実際、物理的な時間はあれから十数分しか経っていない。それなのに窓から差し込む光が不意にオレンジへと変わった気がした。何杯目になるのか分からないコーヒーも、口の中で苦みを帯びた水のようになっている。だが、コイツの話に引き込まれていたのも事実だった。
劇作家、劇場支配人というのは総じて話し上手なのか。それともホーソン・グラスだからこそ成せる技なのか。
「……今のそれが話したかったことか?」
「そう!どうでした?」
 そんな喜々とする顔で言われても反応に困る。部下はまだ戻ってこないのか、ドーナツを買いに行ったとしても流石に時間が掛かりすぎだ。
「ただの群像劇を聞かされてもな、生憎だが事件の資料にはならないんだよ。そもそもアンタが即興で作ったフィクションの可能性もある」
「全部本当の話です」
「なら、もう少し事件に直接関係のある話が欲しかったもんだ。『ここ数年の事故死にまつわる真犯人は幽霊亡霊でした』って言われて納得できる奴がどこにいる?俺が上司だったらブチ切れる」
 この説明で納得できる奴がいるとすれば、目の前のホーソン以外にいないだろう。
「まぁせめて、そのザスって男が死んだ役者に恋い焦がれるあまり精神に異常をきたした挙句に殺人をした、とかならまだ分かるがな」
「彼はそういう無駄なことはしませんよ。殺人・自殺はもっとも愚かな行為だと思ってるタイプの人ですから」
「人間、何するか分からないもんだよ」