「……誰のために書いたと思ってる」
 当時を知る数少ない者は『餞のつもりか?』、『戻ってこないぞ』と俺を憐れんだ。最近入ったばかりの若いスタッフたちは何も知らずに完成した本を演者に配っていく。
それでいい。死人に口はない、あってたまるか。ただの自己満足にして唯一の後悔、これは、あの輝く演技がもう二度と現実では見られないことへの挑戦だ。終わりのない空疎な対話と、神へ突き付けた挑戦状を書き続ける。
「今回も助かった。また付き合ってくれ」
 返事はない。だが俺の耳には聞こえている。
 舞台の上には誰もいない。だが俺の目には見えている。