ある日、学校で道徳の授業を使い、「LGBT」についての授業をおこなった。初めて行うテーマだった。大まかな内容として「LGBTの人たちは変でじゃないよ。みんな違っていいんだよ。今となっては様々な性別があるんだよ。」のようなものだった。それから私への態度が変わった。どうやら私のことを「Transgender〜トランスジェンダー〜」と勘違いしているようだった。Transgender―。つまり体の性と心の性が一致していない人。私が属していると勘違いしてもおかしくない総称だった。しかし、私としてはそこに属しているなんて思ってもいない。だから、とてもじゃないほど居心地が良いとは言えなかった。それに、遥真にも迷惑がかる。もうとっくに「LGBTの彼氏」などの肩書きがあり、いつものように二人で普段話せない。なぜこんなことになったのだろうか。なんでだろうか。どんな状況においても居心地が悪い。前のような気持ち良く依存していた感覚も味わえない。みんな私のことはどう見えているのだろうか。「LGBT」についての理解が深まる前はこんなこと起きなかったのに。理解が深まるって良いことなんだよね。きっと私以外の世界の人たちにとって良かったことなんだよね。今のままだったら微塵も良かったなんて思わないし、思えない。私だけなのだろうけど。

今日も学校か。いつもなら楽しみでならなかった学校も今は地獄に行くかのように感じられる。もう行かなくていいかな。なんて思っても結局重い足を動かしながら通う日々。学校に着くと
「おはよう。玲緒くん!」
誰も頼んでないくん呼び。だれがくん付けで呼べといったのか。しかも、梓には「今までごめんね。気付けなかった。」なんて謝られてしまった。こんな環境で過ごしていると私は「玲王」になりたかっただけではなかったのか。男子になりたかったのか。そんな自問自答をすることしか他にやることがなかった。
もう耐えられない。長く迷った結果だった。遥真にはもう迷惑なんてかけれない。遥真の「大丈夫!」を聞くだけで心が痛む。いつか言っていた漫画の名ゼリフにもう頼ってはいけない。そんな気がして、放課後に校舎裏「終わりにしよう。」そんな七文字で二人の関係にきりをつけた。ついこの間三文字で始まった物語だったはずなのに。短くて長かった四ヶ月。彼の顔は先ほどのような持ち前の明るさはなく、漠然としていた。
「なんで。俺悪いことした?」
「そんなことないよ。私がもう無理なの。ごめんね。こんな私を許して。」
私は思わず立ち去った。目にたまった涙が溢れた。必死に考えた結果、よくある別れるときのフレーズを並べた文章になった。これなら泣けないと思ってたのに。自分の気持ちには勝てなかった。これが二人のためでもあり、遥真のためでもある。そんなこと分かりきっていたのに―。自分の意志であるのか否や目が腫れるまで泣いた。