「ちづる、ちづる」

私を呼ぶ声が聞こえて、目を覚ますと、海堂さんが私の顔を覗き込んでいた。

「海堂さん」

「大丈夫か」

「大丈夫です、私、眠ってしまったんですね」

「インターホンを鳴らしたんだが、応答がなかったから、コンシェルジュの山川に鍵を開けて貰ったんだ」

「海堂さん、鍵持って行かなかったんですか」

「俺はちづるの部屋の鍵は持ってないからな」

あっ、そうだった、私達もう夫婦じゃないんだった。

「これ、買って来たぞ、ここに置いておくぞ」

海堂さんはテーブルにコンビニの袋を置いた。

そして、ドアの方に向かって歩き始めた。

えっ?帰るの?一緒に食べないの?

食事を一緒に食べていた私達、でも今は他人だから別々に食べるのが当たり前なんだ。

「ありがとうございました」

そう言う事が精一杯で、一緒に食べましょうと言う言葉を飲み込んだ。

海堂さんの背中に手を伸ばし、引き留めたかった。

離婚してから気づくなんて、こんなにも失いたくないと思うなんて。