「充の元を去ったのも、それが原因だったのか?」

ちづるは頷いた。

「充は私の病気の事は知りません、充は後継者を残せる相手との結婚を求められていたので、婚約の話が進んでいる事を知って、私は身を引いたんです」

「そうだったのか」

「海堂さんも結婚相手が私じゃ駄目ですよね」

俺はちづるをまっすぐに見つめた。

「俺はちづるで何の問題もない」

「会社から結婚を急かされているって言ってましたよね、後継者も残さないといけないんじゃないですか」

ちづるは慌てた様子を見せた。

「充の会社と違って、海堂コーポレーションは規模が大きくないから、後継者がいないのなら、それで問題ない」

「離婚が必要なら言ってください」

「俺はちづると離婚はしない、後継者を残せないって理由で、なんで俺とちづるが別れなくちゃいけないんだ、そうだろ?」

ちづるはふふっと笑い「はい、はい」と小さな子供をあやすかのように俺を見つめた。

「はいは一回でいいって、いつも言ってるだろう」

「はい」