その頃慎も俺と同じく眠れない一夜を過ごしていた。

「ちづる、ちょっといいか」

「はい」

ちづるは部屋から出てきた。

「ちづる、ちゃんと答えてくれ、充を知っているのか」

ちづるは俯いて「知りません」と答えた。

「俺に嘘は言ってないな」

「はい」

ちづるは慎と目を合わそうとはしなかった。

そして俺とちづるの関係を、慎は疑っていた。

俺はどうしてもちづると話がしたかった。

八年前の事、そして何故慎と契約結婚なんかしたのか。

俺に対しての気持ちはどうなのか。

次の日、慎のマンションへ向かった。

ちづるはインターホンの相手が俺だとわかり、狼狽えていた。

「ちづる、開けろ、話がしたい」

ちづるはドアを開けて、俺を招き入れてくれた。

「ちづる、八年振りだな」

「はい」

「どうして八年前、俺の前から姿を消したんだ」

ちづるは俯いて黙っていた。

「確かに連絡しないで、俺はアメリカに渡米した、あの頃結婚の噂もあった、でも結婚の話は、周りが勝手に進めていた事だ」