「何を言いたいんだ」
「いや、なんでもないさ、ちづるさんがあんまり可愛いから見惚れたんだ、勘弁しろ」
「充、もう、アメリカ帰れ」
「おいおい、それはないんじゃないか」
「お前がライバルだと勝てる気がしねえ」
「それなら引っ込んでろ、ちづるはアメリカに連れて帰る」
俺は慎の腕を振り解き、ちづるの寝室へ足を進めた。
「駄目だ、ちづるは俺の妻だ、渡さない」
「冗談だよ、冗談」
「充、冗談に聞こえねえ」
俺と慎はしばらく睨み合った。
そして俺は慎のマンションを後にした。
慎の妻ちづるは、やはり、俺の探し求めていたちづるだった。
まさか、同じ女を愛する事になろうとは、誰も予測出来ないだろう。
八年も時が経過しているとは思えないほど、ちづるはあの時のままだった。
この俺の気持ちはどうしたらいいんだ。
ちづるを慎の元に置いたまま、平気なのか?
平気でいられるわけがない。
しかし、慎からちづるを奪うなど出来るはずもない。
俺はその夜眠れない一夜を過ごした。