「いえ、申し訳ありません、出かけた様子はなかったと思われますが、確認が取れません」

「そうか」

「ちづる様はお部屋にいらっしゃらないのでしょうか」

「ああ、携帯が置いてあるが、財布が見当たらないので、もしかして出かけたのかもしれない」

「ご心配ですね」

そこへちづるが戻ってきた。

「あ、お帰りなさい、早かったですね」

「ちづる!どこに行っていたんだ、心配するだろう」

「ごめんなさい」

俺は人目も憚らずちづるを引き寄せ抱きしめた。

「えっ?海堂さん?」

ちづるを抱きしめる手に力が入った。

「海堂さん?」

「一人で外に出たら危ないだろ?」

「ちょっとお塩を切らしてしまって、買いに行っていたんです」

「そう言う事はコンシェルジュの山川に頼め」

「そんなことで頼めません」

「ちづる様、大丈夫でございます、なんなりとお申し付けくださいませ」

「でも……」

俺は手が震えていた。

封印していたはずの記憶が脳裏を掠めた。

「もう、あんな思いはしたくない」