曲がり角には魔法がかけられていて、数億分の一の確率で、食パンを咥えた女子高生とイケメンの男子高校生が衝突をする。

 それを世間一般的に、『運命の出会い』と呼ぶらしい。
 なんだそりゃ。
 そんな馬鹿な話、あるわけないだろう?

 この世界には曲がり角は腐るほど存在していて、その数だけ運命の出会いが待っている。
 と言えば聞こえはいいけどさ、つまるところそれは所詮創作の中だけの話なんだ。

 考えてみろよ。そもそも、食パンを咥えた女子高生がどこにいるっていうんだ。世界でも稀なそんな女子高生は、多分俺の幼馴染くらいだと思う。

 そして曲がり角にイケメンが待ち構えている確率はほぼゼロに等しい。
 言ってしまえば、それは『運命の出会い』かもしれないけど、絶対にありえない話なんだ。

 今だって、幼馴染が俺の傍を颯爽と走り去って、手を挙げながら「おはよう!」なんて元気よく言う。その口には食パンが咥えられているけれど、俺にとってそれはよく見慣れた光景だ。

 幼馴染の姿を見て、俺も「おはよう」と返す。その時にはもう幼馴染はずっと向こうにいて、俺の声は多分届いていない。
 でも、元気よく走る幼馴染の姿を見て、俺はいつものことながら元気を貰う。

 なんて馬鹿みたいなことをしているのだろう。
 馬鹿みたいだけど、あいつらしい。

 そうしてあいつは角を曲がる。何かにぶつかったようで、勢いよく尻もちをついた幼馴染が見えた。
 俺は急いで駆け寄る。

 そこには尻もちをついた幼馴染がいて、
 地面には食べかけの食パンが落ちていて、
 手を差し伸べるイケメンがいた。

 いつもは騒がしい幼馴染が、やけに大人しく見えたんだ。