空は昏く、まだ夜明けは遠い。


雪が静かに舞う夜、バイトから帰宅。急いで部屋をあたためて、熱々のハーブティーを淹れる。香草の香りが心地いい。


座椅子に座ったまま、ぼーっとする。


べつに、今の暮らしに不満があるわけじゃない。それなりに楽しんで、キャンパスライフも謳歌してる。


それでも小夜花(さよか)にとっては毎日ぬるま湯に浸かっているようで。


でも――、何かが足りない。


料理も一緒だ。美味しく出来上がって、食べてくれる人も美味しいと褒めてくれる。それなのに、一味足りない。


それはわかってるのに、その何かがわからないみたいな。


「……洋菓子、買ってこればよかった」


ハーブティーは買い忘れないように必ずストックするのだが、甘いものはついつい忘れてしまう。

甘いものはなくても困らない。


でも。


ハーブティーは、バイトの常連さんのうたくんが贈ってくれたものだから。


毎日疲れてへとへとで、何もかもが嫌になって、もうバイトやめようかと思い悩んでた時降ってきたのは――太陽のように煌めく笑顔と、あたたかい言葉だった。



「さよさん、毎日バイトお疲れ様。はいこれ俺のブレンドしたハーブティー。

これ飲んで、甘いもの食べて、ゆっくり休んで。また、前を向けばいいんだよ」



……いつのまに寝てしまったんだろう。


目が覚めたら夜が明けてしまっていた。既に冷めてしまったハーブティーをあたためようと立ち上がる。


そこにチャイムの音が鳴る。誰だろうこんな朝早く……とドア越しに覗いた先には、うたくんがおしゃれなキャラメル色のコートを着て立っていた。


慌てて開けると、あの時の笑顔を浮かべて。少しだけ申し訳なさそうに謝る。



「新年明けましておめでとうございます。ハーブティーとお菓子作ってきました。夜が明けたら一番最初に、さよさんに会いたかったから……連絡するの忘れてすみません」



そんなうたくんが愛おしくて、抱きしめる。微かに香る香草と朝の新鮮な空気を思いっきり胸に吸い込み、小夜花は心から大好きだと告げる。



夜明けに触れた、大切な贈り物。


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