スッキリとしない気持を抱えながらも、カケルは毎日汗を流した。結局、それしか出来ることがなかったから。
走って、走って、走った。
不安な気持ちは、走りに夢中になっているときは忘れられた。
しかしそれは、部活が終わって、マスクをした瞬間にまた沈んでしまう気持ちだった。
意味が無いとふて腐れたり、やっぱり頑張ろうって思ったり、カケルの心は、乱れたバイタルみたいだった。
気持ちが落ち込んでいるのを察する度に、颯汰が声をかけてくれていて、それがとてもありがたかった。
***
大会10日前。
本番に向けて、トラックでの練習を増やすため、部員達は、近くの競技場まで遠征していた。まだまだ日差しが強く、ジリジリと肌を焦がす。立っているだけでも、足元からむわっと熱気が立ち上り、だらだらと汗は流れた。
しかし、カケルは気分が良かった。校庭の土とは違う、赤いタータンが気持ちいい。
久しぶりの感触に、足が喜んでいる気がした。
日に日に近づいてくる本番に向けて、コンディションが整ってくる。
練習量を増やして多少無理をしたが、メニューがキツければキツいほど、頑張っているんだって自分を認めることが出来た。やっぱり自分には部活は必要だ。
タイムが上がると、気持も浮上した。
「よし!いいタイムだぞ!」
カケルがゴールを駆け抜けると、監督は期待を込めた目でストップウォッチを止め、声を張り上げた。
「カケル!調子戻ってきたな!」
頑張ってるな、と肩を叩かれ、カケルは笑顔になる。
「監督、もう一本走りたいです」
羽が生えたように体が軽く、気分が高揚していた。ああ、今日が大会だったらよかったのに。そうしたら、よい成績を残せたに違いない。
「もうやめておこう」
「あと一本だけ!良いタイム出せそうなんです」
「それでなくても、最近のカケルは練習量が多すぎる。そろそろ大会に向けて疲労を溜めないようにしていかないと、パフォーマンスが下がるぞ」
監督は良い顔をしなかったが、どうしても走りたかった。拝み倒してラスト一本の承諾をもらうと、喜々としてスタート位置へ戻った。
何百本と練習した、スタートダッシュ。
セットしたブロックを、なんどもぐっと踏んで確かめた。足を嵌めタータンに指をつくと、カケルはすっと気持を沈め、呼吸を殺した。
走り出すと、風が味方をしている気がした。コースサイドで見守る仲間たちが、あっという間に後方へと消える。車輪にでもなったように足が回転し、ゴールがぐんぐんと迫った。
その景色は一瞬だったのに、今までで一番、目に焼き付いた。
ゴールを駆け抜けると、カケルはつんのめって、勢い余って転がった。
「おい!凄い記録だぞ!県大会の決勝に食い込めるタイムだ!」
監督が、大喜びしながら叫んだ。
「って~……まじっすか!」
カケルはしかめていた顔をぱっと笑顔にし、起き上がった。しかし、すぐにぐらついて、膝をつく。
「あっ……」
鈍い痛みを感じ、呆然として足首を押さえた。
走って、走って、走った。
不安な気持ちは、走りに夢中になっているときは忘れられた。
しかしそれは、部活が終わって、マスクをした瞬間にまた沈んでしまう気持ちだった。
意味が無いとふて腐れたり、やっぱり頑張ろうって思ったり、カケルの心は、乱れたバイタルみたいだった。
気持ちが落ち込んでいるのを察する度に、颯汰が声をかけてくれていて、それがとてもありがたかった。
***
大会10日前。
本番に向けて、トラックでの練習を増やすため、部員達は、近くの競技場まで遠征していた。まだまだ日差しが強く、ジリジリと肌を焦がす。立っているだけでも、足元からむわっと熱気が立ち上り、だらだらと汗は流れた。
しかし、カケルは気分が良かった。校庭の土とは違う、赤いタータンが気持ちいい。
久しぶりの感触に、足が喜んでいる気がした。
日に日に近づいてくる本番に向けて、コンディションが整ってくる。
練習量を増やして多少無理をしたが、メニューがキツければキツいほど、頑張っているんだって自分を認めることが出来た。やっぱり自分には部活は必要だ。
タイムが上がると、気持も浮上した。
「よし!いいタイムだぞ!」
カケルがゴールを駆け抜けると、監督は期待を込めた目でストップウォッチを止め、声を張り上げた。
「カケル!調子戻ってきたな!」
頑張ってるな、と肩を叩かれ、カケルは笑顔になる。
「監督、もう一本走りたいです」
羽が生えたように体が軽く、気分が高揚していた。ああ、今日が大会だったらよかったのに。そうしたら、よい成績を残せたに違いない。
「もうやめておこう」
「あと一本だけ!良いタイム出せそうなんです」
「それでなくても、最近のカケルは練習量が多すぎる。そろそろ大会に向けて疲労を溜めないようにしていかないと、パフォーマンスが下がるぞ」
監督は良い顔をしなかったが、どうしても走りたかった。拝み倒してラスト一本の承諾をもらうと、喜々としてスタート位置へ戻った。
何百本と練習した、スタートダッシュ。
セットしたブロックを、なんどもぐっと踏んで確かめた。足を嵌めタータンに指をつくと、カケルはすっと気持を沈め、呼吸を殺した。
走り出すと、風が味方をしている気がした。コースサイドで見守る仲間たちが、あっという間に後方へと消える。車輪にでもなったように足が回転し、ゴールがぐんぐんと迫った。
その景色は一瞬だったのに、今までで一番、目に焼き付いた。
ゴールを駆け抜けると、カケルはつんのめって、勢い余って転がった。
「おい!凄い記録だぞ!県大会の決勝に食い込めるタイムだ!」
監督が、大喜びしながら叫んだ。
「って~……まじっすか!」
カケルはしかめていた顔をぱっと笑顔にし、起き上がった。しかし、すぐにぐらついて、膝をつく。
「あっ……」
鈍い痛みを感じ、呆然として足首を押さえた。