「周囲の環境を鑑みるに、悪魔の森で採れる石材なんかは、はっきり言ってオーバーテクノロジーだ。あくまで周囲の素材を使って、村を支えてあげなさい。そうすれば、村人たちは自分でその環境を維持できるようになる」
山から水を引いたことで、川の水量が増えたので、しっかりとした石橋をかけた。馬車が通ってもビクともしないはずだ。
そんなことをしているうちに。
「この村に、移住させてくれないか?」
付近の村の住人が、噂を聞きつけてやってくるようになった。俺は彼らの家も用意して、村の敷地を広げた。悪魔の森の城を造るよりは、ずっと簡単なことだ。
「お……俺は錬金術師を見たことがあるが……こんなこと、あいつはできなかった……!」
「私の弟子は特別なんだ」
そう言って、エルダーリッチは俺の頭を撫でる。なんとも気恥ずかしい。
そうして村にはどんどん人が集まり、村は際限なく大きくなっていった。
* * *
付近の村一帯の領主、ダストン男爵の邸。
「ホクホクカブのソテーでございます」
ダストン男爵の前に、料理の皿が置かれた。
「気に入らんな」
「そうで……ございますか。近年では稀な、大変よく育ったホクホクカブでございますが……」
執事はおそるおそるといった様子で、機嫌を伺う。
「それが気に入らんと言っているのだ」
そう言ってダストン男爵は、フンと鼻を鳴らした。
「わしの村に奇妙な錬金術師が来て、好き放題にやっておるそうではないか」
「耳にはしております。村は大きく発展し、作物の収穫量も増えているとか。良いことかと存じますが……」
「考えが足らんな、お前は」
ダストン男爵は、ホクホクカブをひと口食べて言った。
「国へ納める作物の質が突然上がったとなれば、今までなにをしておったのかという話になるだろう。私の責任問題にも発展しかねん。そして」
再び、ホクホクカブを口に運ぶ。
「また検地が行われる。租税も増える。役人に領地を覗かれるのは、もうまっぴらだ。仕事もやりづらくなる」
仕事――税収をピンハネして私服を肥やすことを、ダストン男爵はそう呼んでいた。
「錬金術師とやらを、どうにかせんといかんな。馬車を用意しておけ。あと、兵士を何人か連れて行く」
「かしこまりました」
執事が食堂を去ると、ダストン男爵はホクホクカブの最後のひと切れを口にする。