俺は悪魔の森から村へ戻ると、エルダーリッチとサレンとともに、畑に行こうとした。と、そのとき。小屋にミュウが入ってきた。

「どうしたミュウ、散歩は終わりか?」

 尋ねると、ミュウはなんだか落ち込んでいる様子だった。

「どうした?」

「ミュウ、ミンナニ、コワガラレル……」

 なるほど。確かに魔物まるだしで行動しているのはミュウだけだ。人々からすれば、村を魔物が我が物顔で闊歩しているわけだから、それは怖がられて当然かもしれない。

「ミュウ、俺たちと行こうか」

「……ウン」

 俺はミュウたちを連れて、村長の家に行った。

「畑を、見せてもらってもいいですか?」

「もちろんじゃ。といっても、見せるのも恥ずかしいほどの荒れようじゃがの。さきほどの雨で水だけは足りておるが、それだけじゃ……」

「任せてください、考えがあります」

「おお、さすが錬金術師どのじゃ!」

 それからみんなで畑に向かった。相変わらず荒れ果てている。

「ソラ、策があるんだな」

 エルダーリッチは腕を組んでいる。師匠って感じだ。

「ああ。さっきのホクホクカブと土を分析してわかったんだが、この土からはほとんどの養分が流失してる。おまけにだいぶ酸性に傾いてるみたいだ」

 そう、俺が悪魔の森に帰ったのは、それら不足している養分を収集するためだ。もちろん悪魔の森の生態系を壊すわけにはいかないから、方々から少しずつ集めてまわった。

 これらは、いわば化学肥料だ。

 俺は皮袋からその混合物を取り出すと、ホエルのスキル《天衣無縫》で、畑の土を浮かせ、丹念に混ぜ合わせた。【不断の契り】を交わした相手のスキルを自由に使えるのが〈誓約の首輪〉の力だ。

「おお、まるで竜巻じゃ!」

 村長が驚きの声を上げる。村の人々が集まってきた。

「しかしこれで終わりってわけにはいかないらしい。養分が微生物の働きで定着しないと、作物を植えることはできない」

 さきほどの《鑑定》でわかったことだ。しかし。

「時間がかかる……」

 それを待っていられるほど、村の食糧の備蓄は多くない。

「ふむ」

 エルダーリッチが言った。

「魔法の出番、というわけか」

「できるのか?」

「私は不可能なことは口にしない」

 そう言って、畑に手のひらを向けた。畑全体が、紫色に輝き始める。

「超越魔法《時間推進》だ。その名のとおり、時間を進める魔法だ。畑の土中に展開している」