それから、25日後……

 彼女は妖精になった。予定よりも5日も早かった。慌てんぼうのスカウトマンが、このチャンスを逃すまいと彼女を早めに連れて行ったのだろうか。そんなに急がなくたっていいのに。


 たくさんの人に囲まれて彼女は妖精になった。
 僕は、我慢しきれなかった涙を流しながらも、精一杯の拍手で彼女を称えた。彼女は妖精になったんだ。妖精として彼女はきっと輝いている。



 結局、僕は彼女に「好き」だとは言わなかった。その選択は、一般的には、間違っているのかも知れないけれど、彼女と最期を過ごす中で、決めた選択を僕は間違っているとは思っていない。


「好き」だと言葉にして言わなかっただけで、「好き」って気持ちを伝えなかったわけではない。
 心で、表情で、できる限り彼女に伝えた。彼女に伝わったかどうかは分からないけれど。


 妖精になった彼女は今、どうしているだろうか? きっと彼女のことだから、妖精たちにも慕われているんだろうな。彼女の周りには笑顔で溢れているんだろうな~。

 近年、辛いことや大変なことの多い日々だが、僕は、様々なことに感謝し、人間として生きている。僕が妖精になった時に、彼女に笑われないように、一生懸命頑張って生きている。