全身真っ白の服を着た死神が言った。

「彼女は後、30日程度で妖精になります」


 彼女の肝臓には黒い悪魔が住み着いているらしく、そいつのせいで彼女は妖精になる事になった。

 これはもう決まったことらしく、拒否することは難しい。死神も死神なりに、彼女が妖精にならなくていい方法を探してくれたようだが、残念ながらない。


 彼女が妖精になったらもちろん、人間の僕とはお別れだ。


「あたしが代わりに妖精になるから、どうかこの子だけは……」
「僕が、妖精になるから助けてください」
「なんで、彼女が妖精なんですか? それなら俺がなりますよ」
 彼女の代わりに妖精になると手を挙げた人間はたくさんいた。それほどまで彼女は多くの人から慕われ、多くの人に愛されていた。


 そんな彼女が、どうして妖精にならなければならないんだ? それも21歳という若さで……
 世界から見ても彼女が、人間でなくなることは大損害なはずだ。


 かわいそうで、悲しくて、悔しくて、僕は毎日のように泣いている。僕は無力だ、どうすることもできない。

 それに対して、彼女は強い人だ。このことを前向きにとらえていた。

「あ~私、可愛いから、スカウトされちゃったんだね~ こっちでやりたいことあったけど、仕方ないね」
 そう言って僕の前では彼女は笑顔だった。弱音を吐くことも悲しそうな顔をすることもなかった。

「そっか~スカウトかぁ~それは凄いな。スカウトで妖精になれるなんて」
 彼女に合わせて笑って見せたが、上手く笑えていた自信はない。

「思うんだけどさ、本当に私でよかったよ。これが、お母さんやお父さんや君じゃなくってよかった。その方が私は、悲しいからさ……」
 そんな言葉を彼女の口から聞くと、泣いてしまいそうになる。ダメだ、ここは我慢だ。

一流の俳優さんになったつもりでここは笑うんだ。嘘笑いでもいいから、彼女の前では絶対に涙は流さないと決めた。