兎に角、失業という、いきなりの出来事に菊子はショックで三日寝込んだ。
 食べ物は喉を通らず、水道水ばかりが喉を通過していく。
 げっそりと痩せ細り、自他共に認める化粧ののりが良い肌も荒れてしまった。
 シャワーを浴びる気も起らずにまるで引きこもりの様に布団の中にて安アパートに籠っていた。
 菊子の頭は、これからどうしよう、という途方もない問題だけがぐるぐると巡り、鬱の頂点を極める。
 友達の電話での慰めの声も心に届かず。
 万事休す。
 人生の終わりを悟りまくる。
 そんな調子で元気の全く無くなった菊子を心配した雨が、こうして菊子を半ば強引に飲みに誘ったのだった。
 一応の化粧はして、一応、それなりの恰好をして、ウコンドリンクを嗜んで久々の外に出た菊子を眩しい笑顔の雨が待っていた。
 終始陽気な雨を相手に、十秒ごとに、もう帰ろうかと回れ右する菊子は直ぐに雨に引き戻され、夜の繁華街にひっそりとあるBARへと引きずり込まれた。
 BARのカウンター席で雨がマスターに「彼女に合うカクテルを」と頼むとマスターはシェイカーに正体不明の酒達とソーダを投入してカクテルを作ると琥珀色のカクテルを菊子の前に滑り込ませた。
 空きっ腹にいきなりアルコールは、ちと辛いと思いながらも、しぶしぶと菊子はカクテルを飲んだ。
「美味しい」
 菊子は、それからナッツやサラミを摘みにお酒を飲み続ける事になったのだった。
 酒の力は恐ろしく、菊子の気持ちをハイにしてくれた。
 雨に絡み、マスターに絡み、他の客にも絡みながらの晩餐は永遠かと思われるほど続いた。