***

みなみ先輩が昌也先輩と寄り添って歩き出すと、それまでわたしの隣をゆっくりと歩いていた梁井先輩が急に速足になった。

無言で速度を上げた梁井先輩に合わせて、わたしの歩くペースも速くなる。梁井先輩の背中を追いかけて歩きながら、縦一列でみなみ先輩たちのそばを通り過ぎる。そのとき、「あっ」という、みなみ先輩の弾んだ声が聞こえてきた。

「アイちゃん、おはよう」

みなみ先輩に名前を呼ばれた梁井先輩の肩が僅かに揺れる。

「……、はよ」
「アイちゃん、相変わらず朝からテンション低いよねー」

ボソリと低い声で挨拶した梁井先輩のことを、みなみ先輩が笑ってからかう。

わたしは、みなみ先輩の明るい笑顔を横目に見ながら、幼なじみのくせに全然わかってないんだなって思った。

みなみ先輩に声をかけられて梁井先輩の肩が小さく揺れたのは、昌也先輩と一緒にいても自分の存在に気付いてくれたことが嬉しかったからだ。

みなみ先輩には低く聞こえたかもしれない声のトーンは、どう聞いたっていつもより数倍明るかったし、朝からみなみ先輩に話しかけてもらえた梁井先輩は、表情には出さないけど内心テンションマックスなはずだ。

わたしは梁井先輩が好きだから、彼の微細な心の変化にだって気付けてしまう。気付いて、複雑な気持ちになってしまう。そんなこと、梁井先輩は知りもしないんだろうけど。