「あの、わたし、先輩が来るまで待ってるので」
ぎゅっと目を閉じてそう言い放つと、わたしは両手に水筒を抱えたまま回れ右した。そのままサッカー部の練習場所に駆け戻ると、「あれ、早かったね」と春菜に言われた。
「あ、洗い忘れた……。もう一回いってくる!」
「えぇー」
呆れ顔の春菜に背を向けて水道のところに駆け戻ったとき、もう梁井先輩はそこからいなくなっていた。
かなり突発的な呼び出しをしてしまったけれど、梁井先輩は来てくれるだろうか。水道のシンクに水筒を置いて、振り返る。
校庭では、サッカー部が練習している隣のスペースで、梁井先輩が陸上部の他の部員たちに混じってダッシュの練習をしていた。背筋を伸ばして、涼しげな顔で直線距離を走る梁井先輩の姿もやっぱり目を奪われるほどに綺麗で。そんな彼についに気持ちを伝えるのかと思うと、心音が速くなって、そわそわと落ち着かない気持ちになった。
部活が終わったあと、わたしはサッカー部のメンバーたちへの挨拶もそこそこに、中庭へと一目散に走った。
「さっきも名乗りましたが、わたし、南 唯葉って言います。初めて見たときから、梁井先輩のことがす、好きでした──」
梁井先輩は、約束した中庭にちゃんと来てくれた。それだけで、一生分の運気を使い果たしたんじゃないかと思うくらい嬉しかった。フラれてもいいから、気持ちだけでも伝えられたら充分だった。それなのに……。