「唯葉……!」

おれの叫び声を聞いた南が、大袈裟なくらいに肩を揺らして振り返る。その瞬間、南のそばを通り過ぎていく車のライトが彼女の顔を照らした。

「梁井、先輩……?」

大きく目を見開いた南が、慌てた様子でおれのほうに駆け戻ってくる。

「危ないですよ、先輩」

南が切羽詰まった声でそう言って、ガードレールに立つおれに向かって手を伸ばす。

「だって、南が全然おれのこと見ないから」
「そんな淋しがりでしたっけ」

南に泣きそうな顔で見上げられて、おれはやっと彼女の視界に入れて嬉しくなった。南を見下ろして、ふっと目を細めると、彼女が戸惑ったように視線を泳がせる。

「な、なんですか。それより早く降りてください。危ないんで」
「……、うん」

差し出された手を取らずにいると、南が眉尻を下げて困った顔をした。

「梁井先輩……?」

ひさしぶりに南に名前を呼ばれて、胸の奥がぎゅっと詰まる。どうして前までは、この声に呼ばれて平気でいられたんだろうと思うくらい。南の声が、おれの感情を揺さぶった。

「南」
「はい……」
「弓岡とは付き合わないで……」

ボソリとつぶやくと、南が「は?」と怪訝に眉を寄せた。

「何言ってるんですか……」
「南のこと、好きだって言ってる」

南の目を真っ直ぐに見つめてそう言うと、ぼっと燃えるみたいに頬を赤く染めた彼女が戸惑い気味に瞳を揺らした。

「は? あ、え……? でも、みなみ先輩は……?」
「今はもう、幼なじみとしか思ってない」

おれがそう言うと、南が少し苦しげに眉根を寄せた。

数ヶ月前、彼氏と別れそうだとおれに泣きついてきたみなみは、結局うまく仲直りして。別れ話なんてなかったかのように仲良くやっている。おれは結局、振り回されただけだった。

「南……」

名前を呼ぶと、南が複雑そうな表情で見上げてきた。たぶん南は、おれの気持ちを疑っている。信じてもらえなくて当然だ。

だけど大事なものはなくしてから気付くっていう話がほんとうなら、今置かれてる状況はきっとそれなんだと思う。