「あ、の……?」
「あ、ごめん……。人違い……」

よく見たら、似ていたのはショートボブの髪型だけで南とは別人。おれが慌てて手を離すと、その子は驚いたように目を見開いて、一緒にいた友達と早足で逃げて行った。

「あれって、梁井先輩だよね?」
「二年の?」

彼女たちが去り際にコソコソ話す声が聞こえてくる。絶対に不審に思われた。でも、人違いをした気まずさよりも、彼女が南じゃなかったことのガッカリ感のほうが大きい。

自分らしくもない思考や行動に驚くけれど、他人を南に間違えて理性を失うくらい、おれはあの子と会って話したい。

ため息を吐きながらとぼとぼと歩いていくと、下り坂が終わって平坦な道になり、交差点のある大通りにぶつかる。

大通りの向こう側に渡る横断歩道の前では、部活帰りの生徒たちが何人か信号待ちをしている。そのなかに見つけたショートボブの女の子は、今度こそ間違いなく南だった。

急いで駆け寄ろうとしたとき、信号が青に変わる。

「南……!」

他の生徒に混ざって横断歩道を渡ろうとする南を大声で呼び止めると、立ち止まった彼女が振り向いた。南の目がおれをとらえ、ひさしぶりに真っ直ぐに視線が交わる。それだけで、胸がぎゅっと痛くなった。

だけど、南のほうは気まずげに瞳を揺らして、ふいっと顔をそらしてしまう。途端に、胸を締め付ける痛みが、喜びから失望に変わる。