そもそもおれと南が付き合うことになったキッカケは、あの子の名前がみなみと同じだったからだし。あの子と別れたのは、おれがみなみへの片想いを拗らせていたせいだ。
おれのみなみへの想いがなかったら、おれはあの子と関わり合うことすらなかったかもしれない。
「みなみに、簡単に忘れられるとか言われたくない」
立ち止まってジッと睨むと、みなみが少したじろいだ。
「そ、っか。そうだよね……。好きな気持ちを簡単に忘れるなんてムリだよね……」
昔からおれに対してはズバズバと遠慮なくものを言うみなみが、うつむいて声のトーンを落とす。みなみが珍しくシュンと落ち込むのを見て、言い方がきつかったかと少し反省した。
「悪い。今のはただの八つ当たり」
「ううん。ごめん、あたしもしつこく言いすぎた。アイちゃんと別れてすぐに別の男子と仲良さそうにしてる南さんのこと見て、焦ったって言うか不安になったんだ」
意味がわからず首を傾げると、みなみの顔が急に泣きそうに歪む。
子どもの頃から、みなみはよく笑う子だった。近所に住んでるからってだけで、あまり社交的じゃないおれのことを気にかけて遊んでくれた。周りにいつも友達がいっぱいいて、明るくて男からも好かれるほうで。泣いたことも、泣きそうになったこともない。少なくとも、おれの前では。
「なんで? 何かあった?」
戸惑い気味に訊ねると、みなみは泣きそうな顔のまま、へらりとおれに笑いかけてきた。