そのまま不快感を解消できないままに帰宅していると、家の最寄り駅を降りたところで後ろから誰かにポンッと肩を叩かれた。

「アイちゃん、お疲れ」

振り向くと、みなみが首を横に傾げながらにこっと笑いかけてくる。普段なら、気分が落ち込んでいるときにみなみに明るく笑いかけられたら多少は気分が晴れる。だけど今日は、みなみに隣で話しかけられてもあまり心が揺れなかった。

「どうしたの、アイちゃん。今日はいつもに増してテンション低いね」

挨拶も返さないおれの肩を、みなみがバシバシと遠慮なく叩いてくる。対照的に、みなみのほうは、いつにも増してテンションが高い。ちらっと横目に見ると、目が合った彼女がニヤッとした。

「あたし、わかっちゃったかも。アイちゃんがテンション低い理由」
「は?」
「南さんが原因でしょ」

今ここで、みなみがあの子の名前を持ち出してくる意味がわからない。眉根を寄せると、みなみが今度は慰めるようにおれの肩をぽんっと優しく叩いてきた。

「アイちゃんも見ちゃったんでしょ。南さんが弓岡くんと仲良くふたりで下校してるところ」

みなみの言葉に右側の瞼がヒクリと痙攣した。

おれは直接見かけなかったけど、あのあとやっぱり南は弓岡と一緒に下校したらしい。ふと、顔を赤くしてうつむく南の横顔が脳裏をよぎり、眉間に力が入った。