「そこまで言うなら、マネージャーの仕事手伝う分のお礼ちょうだいよ」
「お礼?」
「今日、ふたりで一緒に帰ろうよ」
南に誘いかける弓岡の少し甘い笑顔。それを見た瞬間に悟った。弓岡は南狙いなんだ、って。
いつからだろう。おれが南と別れたのを知って、チャンスを狙ってたのか……?
「南、いい?」
弓岡が近すぎるだろって思うくらいの距離で、南の顔を横から覗き込む。
「いい、ですけど……」
弓岡の誘いに頷く南の顔は、数ヶ月前におれに告白してきたときと変わらないくらい真っ赤になっていて。ヒクリと、右側の瞼が引き攣った。
あの子は、相手がおれじゃなくてもあんな顔をするんだな。付き合った一ヶ月間、必死でみなみの真似事をしておれの気を惹こうとしていたくせに。ひとたび熱が冷めてしまえば、それで終わりだ。別に自分だけがあの子の特別だったわけじゃない。
小林と一緒にいるところを見られて、一瞬焦って言い訳しようとした自分が急にバカみたいにに思えた。南は、もうおれから離れて違う道に進み始めてる。
「梁井先輩? どうかしました」
顔も拭かずにぼーっとしているおれを見上げて、小林が不思議そうに首を傾げる。
「別に。タオル、洗って返す」
「そんなの、別にどっちでいいですよ」
小林がなにか言っていたけど、おれは借りたタオルで顔を拭いて速足でその場を去った。
背後で響く弓岡と南のじゃれ合う声が耳に不快で。南の声が、どこか弓岡に媚びているようにも聞こえてきて。最高に胸糞が悪かった。