「あ、……」
「南ー!」

これは、別に違う。南に対してついそんな言い訳をしそうになったけど、それは彼女の後ろから走ってきた弓岡の声によって形になる前に潰された。

「南、それ半分手伝う」

南に追いついた弓岡が、彼女の手から水筒をひとつ取り上げる。

「でも、これはマネージャーの仕事なので……」

南の視線が、おれから弓岡に移動する。

「誰の仕事とかないって。おれらが使ってるやつなんだし」
「でも……」

ひさしぶりに聞く南の声は思っていたよりも高くて。弓岡に対して遠慮がちに話す南の口調は、おれの隣にいたときよりもおっとりとしていて。

おれの知ってた南はこんなだったっけ、と衝撃を受けた。おれと付き合っていたときのあの子はもっと……。

思い出そうとした南の印象は、見た目も笑顔も話し方も全部、幼なじみの喜島みなみと重なる。それだけ、あの子はみなみになろうと頑張ってたってことで。それだけ、おれはあの子のことをちゃんと見てなかったってことだ。

「弓岡先輩、やっぱりわたしが洗いますから」
「いいよ、手伝うって」

ぼんやりと見ていると、南が弓岡と水筒の取り合いを始める。

「先輩、それはわたしの仕事なので。早く着替えて来てください」

眉をハの字にしている南から何度も水筒を取り上げる弓岡は、彼女の困っている顔を見るのが楽しいのか、からかうみたいにけらけら笑っている。