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部活終わりに校庭の水道で顔を洗っていると、背後でジャリッと地面を蹴る音がした。

反射的に振り向くと、陸上部の一年の小林が「お疲れさまです」と頭を下げてきた。おれと同じ短距離の選手で、たまに休憩中に言葉を交わす。人当たりがよくて、おれみたいに無口で無愛想なやつにも、遠慮なくにこにこ話しかけてくるタイプの女子だ。社交性の高さは、みなみに似ているところがあるかもしれない。

「お疲れ」

横にずれて場所を開けると、隣に立った彼女がふふっと笑いかけてきた。

「梁井先輩、顔濡れたままですよ」
「あ……」

顔を洗ったときに濡れた前髪から、水滴がぽたぽたと落ちて目の横を流れてくる。前髪を掻き上げながら肩に手を伸ばしたら、いつもそこにかけているはずのフェイスタオルがなかった。

「あ」と、また小さくつぶやくと、小林が笑いながら自分の持っていたタオルを一枚差し出してくる。

「これ、どうぞ。まだ使ってないやつなんで」
「あ、うん。ありがと……」
「どういたしまして」

小林からタオルを受け取って、額にあてる。そのとき、少し離れたところから「南ー!」という声が聞こえてきた。思わず顔を上げて振り向くと、おれたちの後ろにいた南と一ヶ月以上ぶりに目が合う。

南はタンク型の大きな水筒を両手に抱えて立っていて。小林と並んでいるおれを見て顔を引き攣らせている……、ような気がした。