部活が終わって呼び出された中庭に行くと、先に来ていた南は花が散ったばかりの桜の木に向かってひとりごとを言っていた。

「さっきも名乗りましたが、わたし、南 唯葉って言います。初めて見たときから、梁井先輩のことがす、好きでした――! あー、ダメだ。やっぱり好きのとこで詰まっちゃう……」

え、練習してる──? おれが来ていることにも気付かずに、桜の木に向かって何度も「好き」のところがスムーズに言えるように告白の予行演習を繰り返している南。

変な子だな。思わず吹き出すと、南が真っ赤な顔で振り返った。

「え、あ、梁井先輩!? えっと、今のはですね……」

あたふたと慌てる南は、言われてみればちょっと可愛かったかもしれない。

「みなみ、だっけ。いいよ、付き合っても」

真顔でついそう答えてしまった理由を、実はおれ自身が一番よくわかってない。気まぐれだというにはあまりに衝動的過ぎたし、恋だと思うほどの激情はなかった。

あのとき南の告白に応えた理由を、おれはこの先もきっと誰かにうまく説明できないと思う。