玄関のドアを開けると、暑くて気怠い夏の午後の空気が肌に纏わりついてきた。

昨夜はうまく眠れなかった。熱帯夜だったし。あとはたぶん、後輩の彼女と出かけた花火大会で花火を見ないままに帰ってきたから。

部活でいつものように走れるだろうか。寝不足なせいで体が怠くて、軽量なはずのスニーカーを履いた足が鉛みたいに重い。

照り付ける日差しに目を細めながら駅に向かってダラダラ歩いていると、背後から軽快な足音が聞こえてくる。

「おはよう、アイちゃん。陸上部も午後練なんだね」

後ろからおれの肩をぽんと叩いて隣に並んだのは、同じ高校に通う幼なじみ、喜島 みなみだ。みなみとは幼稚園の頃からの付き合いだが、彼女は暑いときも寒いときも、常にテンションが一定で元気だ。たまに疲れないのかなと思うけど、それがみなみの通常運転らしい。おれは昔から、そんな彼女のことが嫌いじゃない。

日差しも気温もクソ暑いのに、涼しげな表情で軽やかに歩くみなみを見つめていると、彼女がふと思い出したように振り向いた。

「そういえばさ、昨日の花火大会は楽しかった?」

首を傾げたみなみの栗色の髪がふわっと揺れる。三日月型に細められたみなみの目は、後輩の彼女と花火大会に行ったおれを揶揄う気満々だった。みなみのニヤケ顔に、おれは少しだけ気分を害する。

できれば、花火大会の話はあまりしたくなかった。