「何言ってるですか、先輩。まさか道路側に落ちるわけないじゃないですか」

にこっと笑いかけると、梁井先輩が戸惑ったように眉尻を下げた。

「わたしはただ、少しでいいからこっちを向いて欲しかっただけです。梁井先輩にフラれたくらいで死んだりしません。いくらわたしが先輩を好きだからって、自惚れないでください」
「……」

笑顔でそう言うと、梁井先輩が綺麗な顔を微妙そうに引き攣らせる。梁井先輩は、何も言わない。ただ、すごく返答に困っているみたいだった。

「心配しないでください。もう、やめますから。みなみになるのも、好きでいるのも……。短いあいだだったけど、梁井先輩の彼女になれて嬉しかったです」

ほんとうは声を出すのだって苦しかったけど、最後は頑張ってちゃんと笑った。

梁井先輩の想う「みなみ」にはなれなかったけど、せめて彼の心の隅に南 唯葉の綺麗な断片が残るように。

わたしはもう、みなみ先輩の代わりではいられないから。そばにいるのが苦しいくらい梁井先輩のことが好きになってしまったから。

わたしはわたしが始めた恋を、ここで終わらせようと思う。