わたしが呼んだ瞬間、梁井先輩がビクッと肩を揺らして振り返る。わかってはいたけど、あまりに予想通りすぎる梁井先輩の反応に絶望した。自分が頑張ってきたことの無意味さに、しがみつこうとしてきたものの無稽さに泣きたくなった。
やっぱり梁井先輩が振り向くのは、みなみ先輩だけなのだ。
「バカみたい……」
みなみ先輩の姿を探して周囲を見回している梁井先輩を、虚無の目で見つめる。
彼が求めているのはわたしじゃないのに。そんな人を今この瞬間も好きだと思っているなんて。ほんとうに、バカみたいだ。
しばらくすると、梁井先輩がガードレールの上に立っているわたしに気付く。少し離れた場所で驚いたように目を見開く彼と視線が交わった。
「南……!?」
今さらわたしに気付いてくれても、ちっとも嬉しくないのに。河川敷に向かって歩く人の流れに逆らって、梁井先輩がわたしのほうに戻ってくる。
珍しく必死の形相で駆けてくる梁井先輩を見つめながら、わたしは心を決めていた。もう、終わりにしようって。
そばに駆け寄ってきた梁井先輩が、わたしを見上げる。
パーツのバランスが整った彼の綺麗な顔を見下ろしながら、わたしは目を細めてふっと息を吐いた。
「梁井先輩。やっぱりわたしは、『みなみ』じゃなくて、南 唯葉として好きな人の隣にいたいです」
わたしの言葉に、「は?」と梁井先輩が眉根を寄せる。