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「改札出たところで待ってます」

花火大会当日。約束の十分前に待ち合わせ場所に着いたわたしは、梁井先輩にラインを送った。メッセージはすぐに既読になって、「もうすぐ着く」と梁井先輩からもラインが届く。

もうすぐってことは、次の電車かな。

改札の向こうにあるホームに続く階段を見つめながら、ドキドキと胸を高鳴らせる。

今日の待ち合わせは、いつもより少し緊張する。浴衣を着てきたわたしに、梁井先輩がどんな反応を示してくれるか気になるからだ。

好きになってもらえなくてもいいから、少しくらいは可愛いと思ってもらえればいいな。

緊張を紛らわすために前髪を何度も撫でていると、電車がホームに入ってくる音が聞こえてきた。キキーッとブレーキの軋む音がして、ホームのほうがざわざわと騒がしくなる。しばらくするとベルの音が鳴って、階段から人がたくさん降りてきた。

普段は人の乗り降りがまばらな駅だが、今日は花火大会なので人が多い。階段を降りてくる人の半分くらいは浴衣姿だ。

改札の端に寄って待っていると、梁井先輩が出てくる。

「梁井先ぱ――」

手を振ろうとした瞬間、梁井先輩の後ろから改札を出てくる人の姿に思わず顔が引き攣った。顔の横に手を上げたまま固まっていると、梁井先輩よりも先にわたしに気付いたその人が、にこにこ笑いながら手を振ってくる。

「アイちゃん。南さん、いるよ」

そう言って、梁井先輩の後ろからひょこっと顔を覗かせたのは、みなみ先輩だった。

「アイちゃん、どこ見てるの。あっちだよ」

みなみ先輩が、わたしの居場所に気付かず別の方向を見ている梁井先輩の腕を引っ張って近付いてくる。

胸がずきっとした。

どうして梁井先輩はみなみ先輩と一緒なの……? どうしてみなみ先輩は、あたりまえみたいに梁井先輩の手を引いてるの……? 
 
いろんなことに頭がついていかない。

しかも最悪なことに、みなみ先輩の浴衣はわたしと同じ水色だった。示し合わせたわけでもないのに、まさかの色被り。紫のアサガオ柄の浴衣はみなみ先輩にとてもよく似合っていて、金魚の柄の浴衣を着たわたしよりも随分と大人っぽく見える。