「花火大会の日、部活入ってますか? わたしは午前練だから、夕方は大丈夫です。先輩は?」

いい返事をもらえることを期待しながら訊ねると、梁井先輩が制服のポケットからスマホを取り出した。ラインを開いて見ているのは、陸上部の練習カレンダーらしい。しばらくジッとそれを見ていた梁井先輩が、スマホに視線を落としたまま「おれは午後練」とつぶやく。

「あ、じゃあ……」

ダメかな……、とションボリ肩を落としかけたとき、梁井先輩が制服のズボンのポケットにスマホを入れながら顔をあげた。

「でも、15時には練習終わるから行ける。花火大会って毎年19時半からだっけ」
「はい、そうです!」

大きく頷くと、梁井先輩が少し面倒くさそうに眉根を寄せる。それでも、「行ける」という返事をもらえたことがわたしにはとても嬉しかった。

「花火大会の日は電車も混むと思うので、できたら早めに待ち合わせしましょ。18時くらいには会えます?」
「大丈夫」
「わかりました。じゃあ、前日にまたラインしますね」

うきうきしながらそう言うと、「待ち合わせ場所だけど」と、珍しく梁井先輩のほうから会話を続けてきた。

「花火メインなら、主会場じゃなくて橋を渡った反対岸で見たほうが空いてると思う」
「そうなんですか」

普段はわたしとのデートに受身で臨む梁井先輩が、自分から何か提案してくるのは珍しい。