一学期の終業式の朝。駅から学校まで続くなだらかな坂道を、いつものように梁井先輩と並んで歩く。

明日から夏休みだ。嬉しいけれど、しばらくは梁井先輩とあまり会えなくなる。それが淋しくて、わたしは梁井先輩の隣で必要以上に饒舌になった。

駅の改札の前で顔を合わせてから、あれこれといろんな話をしてみるけれど、梁井先輩は相変わらずわたしに見向きもしない。

「先輩、夏休みの予定なんですけど……」

校門が数メートル先に見えてきたところで、思いきって夏休みの話を切り出してみたけれど……。ぼんやりと遠くを見ながら歩いている梁井先輩の耳には、わたしの声なんて届いていない。

梁井先輩の視線の先を辿ると、そこにいるのはみなみ先輩。梁井先輩の世界は、今日もみなみ先輩を中心に回っている。みなみ先輩は梁井先輩のことなんて少しも見ていないのに。

胸に澱む暗い気持ちを、ため息とともに吐き出す。口角をあげて明るく見えるように笑顔を作ると、わたしはぴょんと跳ねるようにして梁井先輩の顔を横から覗き込んだ。

「夏休み、花火大会に行きませんか?」

横から身を乗り出してきたわたしに、梁井先輩が驚いたように一瞬身を引く。

「河川敷の?」
「そうです」

わたし達の住む地域で一番規模の大きいのが、毎年七月の最終土曜日に行われる河川敷の花火大会だ。

浴衣を着て彼氏と花火大会に行くのなんて、憧れ中の憧れだし。もしかしたら普段見慣れない格好で会えば、梁井先輩も少しくらいはわたしのことを意識してくれるかもしれない。それに、好きな人と見に行く花火大会はキラキラした青春の思い出になる。