付き合いだしてからの一ヶ月、わたしと梁井先輩は彼氏彼女として毎朝一緒に登校している。けれどそれだって、わたしから誘いかけたことだ。

わたしが誘わなければ、梁井先輩から声をかけられることはない。ラインもデートの誘いも全部わたしから。わたしが誘わなければ、梁井先輩との関係は自然消滅する。それくらい、わたしへの彼の態度は冷めている。

今だって、自分のペースですたすたと歩いていく梁井先輩は、みなみ先輩のことを考えているんだろう。

形式的には恋人同士でも、わたしの想いはいつだって一方通行だ。どれだけ追いかけても、わたしの気持ちは報われない。それでも、追いかけずにはいられない。

たとえ一方通行の想いだったとしても、わたしは梁井先輩が好きだから。

小走りで追いかけてシャツの背中ぎゅっと捕まえると、振り向いた梁井先輩と目が合った。こうして無理やり引き止めなければ、彼はわたしを見てくれない。付き合っているはずなのに、視線を合わすことすらままならない。

どれだけ隣にいたって、わたしと梁井先輩の心の距離は縮まらない。いつまでもずっと、一定の距離を保って離れたままだ。

胸が痛い。こんなのがずっと続くなんて耐えられない。そう思うのに、わたしは梁井先輩の《彼女》のポジションをどうしても手離せない。

「南?」

唇を噛んでうつむくと、梁井先輩がわたしの顔をそっと覗き込んできた。

「どうかした?」

梁井先輩の声に、ほんの少しだけ気遣いの色が浮かぶのがわかる。

いつもわたしに興味も関心もないくせに。こんなときばかりわたしを見てくれる。気まぐれな梁井先輩の優しさが痛かった。