わたしが告白をしたとき、梁井先輩は「みなみ、だっけ?」と名前を確認してきた。梁井先輩が受け入れたのはわたしではない。きっと、好きな人と同じ記号を持ったわたしだったのだ。
そのことに気付いてから、わたしは少しでも梁井先輩の視界に入りたくて、みなみ先輩に近付く努力をした。
まず少しでも見た目が近付くように、肩まで伸ばしていた髪を栗色に染めた。クラスの中でも大人っぽくてメイクが上手い沙里に頼んで、みなみ先輩に似せたアイメイクを教えてもらった。ついでに眉毛も整えたら、雰囲気がぐっとみなみ先輩に近付いた。
だけど見た目を似せても、梁井先輩はわたしの容姿の変化に何の興味も示さなかった。
梁井先輩が好きなのは、みなみ先輩の見た目ではないらしい。そう思ったから、今度はみなみ先輩がどんな人なのかを観察した。
友達といるとき、彼氏の昌也先輩とふたりでいるとき、梁井先輩に声をかけるとき、どんな表情でどんな仕草を見せるのか。一週間ほど観察してわかったことは、みなみ先輩は明るくノリが良く、よく笑う人だということだった。
梁井先輩がみなみ先輩の明るい笑顔に惹かれたのだとしたら、ものすごく納得できる。だからわたしも、梁井先輩と一緒にいるときは笑顔でいるように心がけた。
だけど、いつも笑顔で明るい彼女を演じても、梁井先輩がわたしに興味を持ってくれることはなかった。努力は全て無駄だった。