みなみ先輩から姿が見えないところまで離れると、梁井先輩はわたしの手首をパッと離した。そのまま何事もなかったみたいに歩いていく彼は、わたしを振り返ろうともしない。

本当に、全く微塵も興味がないんだな。一ヶ月もこうしてそばにいるのに。

静かにため息を吐くと、肩のところで緩くカールしている栗色の髪の毛の先を右手の指で摘む。

梁井先輩が告白をオッケーしてくれたのは、わたしのことが好きだからでも何でもない。彼は、私そのものになんて全く興味がない。彼の気を惹いたのは、わたしの名字。それが、彼の好きな人の名前と同じ「みなみ」だからだ。

そのことに気付いたのは、梁井先輩と付き合い初めてすぐ。梁井先輩を誘ってふたりで下校していたときのことだ。

「この子がウワサのアイちゃんの彼女かー。よろしくね」

梁井先輩の幼なじみだというみなみ先輩が突然話しかけてきた。

みなみ先輩は初対面のわたしにもにこにこと笑いかけてきてくれて、気さくで感じが良い人だった。だけど……。

「アイちゃんも彼女さんもおめでとう」

みなみ先輩が笑顔でそう言ったとき、いつも感情を表に出さない梁井先輩が、わずかに頬を引き攣らせて傷付いた顔をした。

微細な表情の変化を敏感に察知してしまうくらい、わたしは彼のことを見ていたし、彼のことが好きだった。だからそれだけで気付いてしまった。梁井先輩はほんとうは、みなみ先輩のことが好きなんじゃないかって。

その予感は、すぐに確信に変わった。

梁井先輩は、いつもみなみ先輩のことを見ていた。昌也先輩と仲良さそうに笑い合うみなみ先輩を見つめながら、切なく憂いを帯びた目をしていた。

梁井先輩が今まで誰に告白されても断っていたのは、みなみ先輩の存在があったからだ。それなのに、わたしの告白を受け入れてくれた理由は――? 

考えて思いあたったのは、わたしとみなみ先輩との共通項だった。