次の日いつもより早く起きることができた。ぐっすり眠れたからだろうか。今日は瞬に逢いに行く日だ。この日は何があっても最優先で瞬のところに行くことにしている。
 
 瞬がいるのは霊園の一角。私はお花とお線香、水の入った桶を持って丘を登った。今日は晴れているから見晴らしがとても良い。
 
 お墓を綺麗にして、お花を入れ替える。その後はお線香をあげて、これまであったことを一通り瞬に話す。ここまでが瞬の命日に私のやること。
 毎年、この日は私に譲ってもらってる。瞬の家族も命日には来たいはずだと思う。
 
 「あまり自分を責めないで。あなたのこと、瞬に聞かせてあげてね。それとね、茜ちゃんが良ければだけどお願いがあるの。」
 
 瞬のお母様はそう言って私に毎年、瞬の命日にお墓参りすることを許してくれた。
 私も瞬のところに行けるのは嬉しい。
 
 「人間って分かんないなー。なんで死人のためにこんな事してるのか、理解に苦しむよ。」
 
 縁起悪い……。死者を弔う場所に死神って。
 
 「僕、魂の入っていないものに興味無いなー」
 こんなこと言ってるけれど、無視することにする。
 「ねえ、ここって誰のお墓?」
 無視したいのに続けて話しかけてくる。
 
 「私の彼氏。事故で……いや、私が殺したんだ。」
 ハッキリとそう口にするのは始めてだった。罪悪感が重くのしかかる。
 
 「えー茜が直接手にかけたの?そんなこと出来るようには思えないけどなー。」
 
 横が五月蝿い。私だって瞬には死んで欲しくなかった。でも私が殺したようなもんだ。私が瞬に会いたいって言わなければ……
 
 「人を殺したなんて簡単に言うんじゃないよ。」
 
 シオンが静かに怒った。これまで怒ったことなさそうなシオンが。怒鳴ったとかそんなレベルじゃない、冷めたような、感情のない口調で。私の中の何かが切れたような音がした。
 
 「アンタに何が分かるって言うの!瞬のことも、あの日のことも知らないくせに!」
 一息でまくし立てたせいで呼吸が荒くなる。
 感情が高ぶって涙が出てくる。
 
 「知ってるよ。あの日、あの子の魂を回収したの僕だもん。」
 
 いつも通りの口調に戻ったシオンは衝撃的なことをさらっと告げた。
 
 墓石に立てた花が風に揺られ、静かな空気が流れた。
 
 「え……それって……アンタが、瞬を殺したってこと?」
 恐る恐る息継ぎをしながら訊ねた。
 
 「いや、死んだ後、身体から出た魂を回収したから殺したのは僕じゃないよ。」
 シオンは笑うことなく静かに答え、さらに続けた。
 
 「あの子が最期に言ったこと教えてあげようか。」
 
 瞬が思っていたこと、最期に出てくるのは私への恨み言かもしれない。それでも、私は聞かなくてはいけないと思った。大好きな彼の最期の言葉だから。
 
 「茜ともっと生きたかったって。それから、忘れないで欲しい。でも幸せに生きてって。」
 そう言って、死神に私の事を任せたらしい。
 今までの自殺が全て失敗に終わっていたのは死神の仕業らしい。
瞬は、私が自分を責めて自殺しようとするところまでお見通しらしい。それから私は瞬が亡くなって、初めて泣いた。溜まっていたものを押し流すように涙は溢れ続けた。
 
 「瞬のいない世界でどうやって幸せに生きたらいいのよ……」
  涙ながらに呟くと隣にいたシオンには聞こえたらしい。
 
 「幸せなんて他人に縋っちゃダメだ。自分の幸せは自分で見つけなきゃ。」
 
 瞬の墓石にある花を愛おしそうに見つめながら言った。シオンがこんなこと言うなんて意外。
 そう思って、とりあえず涙を拭った。
 気がつくと空は暗くなり星が出ていた。空はこんなにも綺麗だったんだ…