涙を袖で拭うと、ベッドの下の段ボールからガラクタと一緒に放り込んであった、お揃いのカメラを取り出した。
ふーっと息を吹き掛けると埃が舞う。
顔を顰めて、それを手で振り払った。

二つのカメラを並べて置くと、偉琉が近くにいるような気がした。

偉琉は過去の俺を見せる事で、俺の背中を押してくれたのだと思った。

辛い辛いと思っていた記憶は楽しかった思い出に塗り代わり、走馬灯のように流れてゆく。

次々と現れる記憶の偉琉はすべて笑顔だった。

そう言えばあいつは強い奴だった。
泣き言を言わず前向きで、いつも俺を励ましてくれていた。

つられておれも笑顔になる。
俺の隣でいつも笑ってくれていた偉琉は、シャッターとシンクロして光る閃光電球のようだ。



偉琉のカメラを手にする。
あいつを抱き締めるように大事に持ち上げた。データを確認すると、撮影したものがまだ残っていた。


偉琉が撮影した最後の一枚。
それは俺が、あの時走り出した後ろ姿だった。

自分が被写体なのに何故か感動した。躍動感が伝わる。希望に満ちて未来へと駆けて行く様子が納められていた。


「すげぇ」

思わず声が漏れる。格好良いと思った。最高の一枚だった。


『写真の中が生きていたよ』

初めて出会った時を思い出す。

無性に撮りたくなった。
全身がうずうずとする。
上手いとか下手とかじゃなくて、その瞬間を切り取って、偉琉に届けたいって思った。

泣きすぎて腫れた目では、ファインダーはうまくのぞけないかもしれない。

それでも、どうしても今撮りたかった。
我武者羅に。

カメラを掴むと外へ飛び出した。
初めて会った時の、重なったシャッター音が聞こえた気がした。