『一時期僕達、河原の石ばかり撮っていた時期があったね。どれだけ神々しく撮れるかだなんて競争して遊んだの覚えてる?
あれ、くだらなかったけれど凄く楽しかったね。

あ、あとさ、通学路にある駄菓子屋! そこのおばあちゃんが飼ってるマルチーズさ、この間、散歩している風景を撮影させてもらっただろ。

僕また撮りたくてお願いしに行ったら、ふわふわの毛がバリカンで刈られてたんだ! 切りすぎてハゲみたいになってる部分もあって、酷い状態なんだよ。あれじゃあ暫くモデルにはなれないなぁ。

全身が散切り頭っていうの?バッサバサになっちゃってたもん。総一郎も見てみてよ凄い笑っちゃうからさ』


無邪気な偉琉に嗚咽がもれる。


「ーーーーバカじゃん。それは三年前に言ってくれないともう見れないだろ」


延々と思い出を語る偉琉を恨めしく思った。
なんでこんなに元気なんだ。
なんで今更、俺にこんなの残したんだよ。




偉琉は一息つくと、少しだけトーンを下げて優しい声になった。

『……ねぇ、総一郎。僕のお願いを負担に感じていなかったかな。

続きを紡いでほしいだなんて我が儘を言ったけれど、ただ単にこれからも総一郎らしい写真を撮って欲しいなっていう、僕の希望なだけなんだ』


「ーーーーごめんな」


撮れないんだよ。全然楽しくないんだ。あの日から俺は、カメラを構えるのが辛い。


最後の日は後悔だらけだった。
もっと旨いもの食べて、最高の景色見せてやって、偉琉が眠りにつく瞬間には隣に居てやりたかった。

もっと出来ることがあったんじゃないか。

なんで俺はあの時、偉琉を置いて走って行ってしまったんだって、ずっと後悔してた。


「ごめん偉琉……」


『総一郎に会うまでの僕はさ、なんで自分ばっかりって運命を呪って、平気な振りをしていただけだったんだ。

本当は怖くて悲しくて、自暴自棄になってた。

でも最後の一年とちょっと、一緒に過ごすことが出来て、綺麗な世界を見せて貰って凄く充実してた。

普段の何気ない日常でさえもこんなにも輝いていたんだなって、毎日がとても尊いものに感じられるようになったんだ。

それはやっぱり、総一郎のおかげだよ。

それだけ総一郎の写真は、周りに影響を与えられるって事なんだ』

ちゃんとわかってる?と問いかけられ俺は唇を噛んだ。