「三年後に連絡してほしいって頼まれてたの」

やっと足を運ぶことが出来た偉琉《タケル》の実家で、母親からレンズが割れたままのカメラとUSBを渡された。


「カメラ、形見なんじゃ...」

「いいのよ。総一郎君に憧れて買ったものなんだから、あなたに使って貰った方が偉琉も喜ぶと思うの。それにね、必ず渡してくれってしつこかったんだから」

母親はその時の事を思い出しているのか、懐かしそうに目を細めた。


***

カメラは久しぶりに持ったにも関わらずしっくりと手に馴染んだ。懐かしい重さだ。
動作確認をすると破損はしているものの、レンズ交換さえすればまた使えそうだ。


家に帰るとすぐにデータを確認した。
パソコンで確かめるとフォルダが沢山でてきて、必ず順番に見るようにと注意書があった。



『これを最初に見ること!』と名前をつけられたフォルダを開いて、中身のデータをクリックする。


『あー、あー。聞こえる? ちゃんと録れてるのかな』


それは音声データだった。
ガサゴソと雑音が入る。

久しぶりに聞いた偉琉の声に、俺はフリーズした。映像は無いのに、偉琉がそこにいるかのように俺はパソコンを凝視した。


『けっこう照れるな、ん"ん"』

偉琉はえへんと咳払いをして、喉を整えてから話し出した。



『総一郎がこれを聞いているときは、僕はもうこの世にもういないって事だよね……。

ーーーなんて、ドラマみたいな語りだしをしてみたけれど、実際そうだよね。
これは"僕が死んでから三年後に渡して"ってお願いしてあったんだけど、母さんは守ってくれたかな? 今ってちゃんと三年後?

実は総一郎とはさっき別れたばかりなんだ。最近どう? って聞くのもなんか変な感じがするけど……どう? 元気だった?

今は3月31日だよ。
明日の事を考えると、凄くドキドキして凄く怖い。

誕生日は自分の思う通りに過ごしていいって言われてたから、僕はいつも通り総一郎と写真を撮らせて貰うことにしたよ。

それが一番楽しくて、生きてるって感じがするし、総一郎といるほうが何だか落ち着くからさ。

えーと、これを聞いてる総一郎は、21歳で合ってる?

なんで三年後にしたかは実は適当なんだけど、総一郎は写真の専門学校に行くって言ってただろ?
二年勉強して、その後、プロとして活躍してるの総一郎って、どんなかなってずっと考えてたからさ。有名な写真家になって世界中を飛び回っているのかな。
写真だけに留まらないで、映画監督とかしてたら格好いいなぁ』


好き勝手話す偉琉に「さすがにそれは無理だろ」と苦笑した。