「明日さ……」

「ああ、明日はどこ行こうか?総一郎は行きたい場所ある?」

「明日はいつもの埠頭にしよう。……誕生日なら、なんか奢ってやるよ」

探るように誕生日の話をしても、偉琉はなんの反応もしなかった。


「本当? 嬉しいなぁ」

「旨いハンバーガーを食べよう」

「いつもと一緒じゃん」


偉琉はずっと笑顔だった。

俺は引き攣って、上手く笑えなかった気がする。
本当に死んでしまうのかと、その夜は不安で眠れなかった。



しかし次の日、18歳になった偉琉は約束の時間にちゃんと来て、元気に写真を撮って、昼には行きつけのファーストフード店でハンバーガーとポテトのセットを完食して元気だった。


なんだ。大丈夫じゃないか。
安心して深く息を吐き出した。

ずっと不安で堪らなかった心が、ようやく落ち着いた気がした。

そうだ。偉琉はずっと元気だった。

だから誤診かもしれないし、例え本当に病気だとしても偉琉は助かる前例を作ったんだ。



根拠もなく、偉琉だけは大丈夫なのだと思った。



「なぁ、午後はまた船に乗ろう! あ、出港時間もうすぐじゃねぇ?」

俺は気が抜けて、馬鹿みたいにはしゃいだ。


「あ、まってよ」

俺が先に立ち上がると、偉琉は慌てて残っていたコーラを飲み干した。


店の外に出ると俺は駆け足になった。

「急ぐぞ!」

取り越し苦労だったと笑いが汲み上げる。寝不足もあってハイテンションだった。


「待ってってば」

「乗り場まで競争して、負けた方が明日の昼飯奢ることにしようぜ!」

「総一郎ずるくない?! 先に走り出したじゃん」

「早くしろよー」


偉琉も笑っていた。

「そういちろ……ーー」

一瞬前まで。


言葉が途切れた偉琉を振り返ると、体が揺らいだ瞬間だった。

手から離れたカメラが先に落ちて、欠けたレンズが飛び散る。



ーーーー偉琉は、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。