拓巳はスマホを開いた。そして、息を飲んだ。
「拓巳さん?」
 はるかが小首を傾げてこちらを覗き込んでくるが、拓巳の目はスマホに釘付けだった。
「ライブ映像が流れてる」
 それだけ言い、スマホをはるかのほうに傾ける。
「あ……」
 そこは、地面が海に向かって崩れ落ちていくのが映し出されていた。
 場所は、大洗の海沿い。
 しばらくその映像を眺めていると、ゆっくりと建物が押し流されてきた。アパートだ。先程まで自分が住んでいたアパート。しばらくすると、職場のある町が海水に浸かっている映像が流れた。
 震えそうになるのをなんとか堪えていると、隣のはるかが大きく息を吐いた。
「危なかったですね」
 拓巳は顔を上げてはるかを見つめる。
 あとほんの三十分出るのが遅ければ、自分もあの土砂崩れに巻き込まれていたことだろう。
 最後に会ったご近所さんの顔が思い出された。しかし、敢えて考えないようにした。
 これが日常。ここ数年の日常。
「またお前に助けられたな」
 拓巳は呟く。前にもあったのだ。今までは生死に関わるようなことではなかったが。晴れた日、天気予報でも晴れと言っているのに「傘を持って行ってください」。穏やかな日なのに「夕方から風が強くなるので気を付けて」。
 この女は霊感でもあるのだろうか。こいつは何者なのか。
 そう頭で考えようとはするが「なんにせよ助かった」それしか今は考えたくなかった。

「着いたぞ」
 笠間のとある公園に着いたのは八時を少し過ぎたところだった。ひとまずこの公園で今日の計画を立てようと考えていた。予約したホテルは夕方からのチェックインだ。
 ひとつの街が海に沈んだ朝でも、公園内はのどかだった。