夏、凄く暑い日に車椅子に乗って彼女と海に行った。

義姉が亡くなって数ヶ月が経っていたが、まだ俺も芽李さんも心の傷は癒えてはいなかった。

それでも、残り少ない人生を楽しみたかった。

「海、初めて来たかもしれません。」
「すぐ近くに住んでるのに?ある意味すごいね。」
「義姉さんはよく友達と海に行ってましたよ。写真たくさん見せてくれるんです。」
「そうだったんだ。…ねぇちょっと入ってみない?」
「海に?……気になります。」
「でしょ?ほら、立って。」

俺は、初めて芽李さんに掴まりながら海に入った。

入ったというより、少しさわってみた…

蒸し暑い日差しと風のなか、ひんやりと冷たい海水。

行ったり来たりする波は、俺の足をくすぐる。

「濡れてもいいですか?」
「風邪ひかないでね。何?気になるの。」
「義姉さんが、海水はしょっぱいって言ってて…」
「座ろうか。ちょっとペロッってしてみたら?」

俺に合わせて座ってくれる芽李さんは、いつもよりも笑っている。

少しだけ、指を海水につけて舐めてみると…

「しょっぱっ…」
「思ったよりしょっぱいんだよね。私も初めて舐めた時すごいビックリしたもの。」

塩分濃度がかなり高そうな、海水…

「義姉さんは、海水を飲んじゃったって言ってました。結構ヤバイことしてたんですね。」
「あぁ~…うん結構…うわっていうか、むせっちゃうからね。」
「大変ですね…」

その後、少し経ったら家に帰ってその海を忘れないうちに、絵に描いた。

もちろん、色も塗った。