彼女の唇は、体が汗ばんでいるのにも拘わらず、乾いていた。わたしは、自分の濡れた唇に人差指を入れ、指を潤わせてから、彼女の唇の中にそれを入れた。わたしは彼女の乳首を唇で挟んで摘まみ上げたり、歯で軽く噛んでやったりした。彼女は、乳首を吸ってあげると軽い呻き声を漏らし、首を強張らせながら反らした。その間もわたしは、人差指の動きを止めなかった。少し、指を折り曲げて、唇の中の口蓋も刺激してあげた。すると、突然、彼女の体はピクンと震えて、両足が固く硬直し、わたしの人差指は、彼女の唇に挟まれた。わたしが、人差指を引き抜くと、彼女はぐったりとして、海綿のようになって動かなくなった。
 二人が寝入ったのは、多分四時過ぎだったろう。部屋の外で怒鳴った母の、
「2人とも起きなさい!ごはんですよ」
という声に、わたしも彼女も慌て衣類を身につけた。
 彼女が言った淋しさとは、結局、肉体の寂寥であり、わたしが言った寂しさとは、魂の孤独だったのだ。彼女は、それに気付かず、わたしの体に絡みついてきた。わたしは敢えて抗御しなかった。わたしの体は、次第に綾を解いて行くのに、わたしの心は次第に悲哀を募らせていった。
 わたしにはもう友はいない。狭い部屋で二人して、長い夜を語り明かす、良き人生の伴侶はいない。互いの心の琴線を爪弾き、互いの心に響く共通の言葉を以て、人生を語るべき第一の他我はもういない。吉田拓郎の『我が良き友よ』のように青空の下で口笛を吹きながら、悠久たる天に向かって夢を叫ぶような友は、今は肉塊と化している。
 友よ、友よ、嗚呼、友よ、その親し気な言葉の響き、友、それは天にも地にもただ一人、孤独ならざるを得ない人間のつくった奇跡。友よ、あなたにだけは、真実を語ろう。心情を吐露して、わたしの胸の扉を開こう。でも、その友はもういない。そこで、吉田拓郎の『我が良き友よ』を演歌風にした歌が生まれる。

  軽佻浮薄が  世に罷る
  時世を嘆く  憂士あり
  世の軟弱に  背を向けて
  痩せて我慢の 意地を張る

  そんなにいいか 優男
  俺の誠が    見えないか
  見てくれだけに 靡くよな
  女はなどと   ひとり哭く

  智に働いて 角を立て
  情けに竿を 敢えて差す
  流れを枕  石を歯に
  硬派の誉れ 我にあり

  言うなそこ迄 分かってる