僕のためなら嬉しいけれど
    でも君はパヴロフの恋人
   僕のためだと思いたいけど 
    でも君はパヴロフの恋人
  君はよく笑うけれど泣き虫なのさ
  見ただけで抱いてあげたくなる
  僕の目の前で胸が熱くならないかい
  首をかしげ 前髪に触れ 頬に笑み
  君はそんな仕草ばかり気にしてる 
    僕のためなら嬉しいけれど
    でも君はパヴロフの恋人
   僕のためだと思いたいけど
    でも君はパヴロフの恋人
    子犬みたいに可愛いけれど
    でも君はパヴロフの恋人
   僕のためだと思わせぶりな 
    そう君はパヴロフの恋人
一月一日

 愛も何もない東京は退屈なだけ。明日からまた、恒例の年始回りの人々が、酒宴を求めて我が家に来訪するだろう。嘘しか話さない人々と顔を合わせているのは苦痛だ。あす、志賀直哉の『暗夜行路』を抱いて、田舎に旅立とう。志賀直哉を小説の神様と評す阿川佐和子の父親の阿川弘之などの小説家や文芸評論家は多い。でも、わたしには志賀直哉の『城崎にて』も『小僧の神様』も『和解』も『赤西蠣太』も、阿川弘之の『雲の墓標』も、どれも退屈だ。退屈といえば、長塚節の『土』や島崎藤村の『夜明け前』などの写実主義や自然主義も退屈だ。横山利一の『蠅』などの実験小説も成功したとは言いがたい。どれも睡眠薬としては秀逸。眠れない夜は枕元に置く。そこで、小椋佳の『めまい』のような歌が生まれる。

  遠いせせらぎがわたしに
  そっと囁きかける
   目を閉じてはいけないよ
    凍えて冷たい氷の愛は
    ほんのひとときの
     うたたねだけでも
      硬く凍った蒼い蒼い海の下へ
      沈んで行ってしまうものだから

  遠い雨垂れがわたしに
  そっと囁きかける
   目を閉じてはいけないよ
    年端もいかない小さな愛は
    ほんのひとときの
     まばたきだけでも
     手の届かない白い白い雲の上へ
      飛んで行ってしまうものだから
だから うたたねはしないで
       だから まばたきはしないで
       何気ないせせらぎや
       ささやかな雨垂れにも
       かけがえのない愛はあるのだから

  遠い想い出がわたしを