あ あなたはneglector
   知らない素振りでpretender
   あ あなたはheart-breaker
   わたしを粉々に
   
   あなただけを好きなのは
   わたしの所為じゃない
   したいように好きにして
   なのに何で逃げる
   そんな嫌なわたしでも
   一度ぐらい抱いて
   愛が欲しい

   殺したいの好きだから
   追いかければ逃げる
   そんな嫌なわたしなら 
   早く首を絞めて
   殺されても愛してる
   死んでからも追うわ
   だから愛を

十二月十二日

 今日、彼と銀座の画廊に行って、彼の友達の個展を見た。銀座はあまり好きなところではない。わたしは無秩序で殷賑で、果敢なくて、単純で、不躾なイルミナシオンが嫌いだ。濃い化粧の女、幻惑させるような雰囲気、薄っぺらな表層的なインテリアが嫌いだ。
 でも、裏通りはそれほど嫌いでもない。貧乏画家や美術大学の学生が、映画俳優や有名人の似顔絵を並べて売っているような角を這入れば、銀座の街の持つ煌びやかな刺々しさや鼻先が凍り付いているような余所余所しさから解放される。
 彼が不意にわたしの赤いオーバーの二の腕を引いて、わたしの足を止めた。彼がわたしの体に触れることは滅多にない。わたしが彼との間に微妙な距離を意図的に保っているからだ。だからわたしは一瞬、首筋がぞっとした。彼は、わたしのその様子を察知してか、笑ってわたしの悍ましそうな様子から受けた心の波紋を誤魔化そうとしていた。彼は、不意に足を止めたペイブメントから、洋装本のショーウンドーの中にある大きな鏡を覗き込んでいた。わたしの顔と彼の顔が、その鏡の中で出会うと、彼は訳もなく笑った。彼の笑顔には、少しあどけなさが残っている。それは、少年よりも子供を感じさせた。彼の表情、それは、何か妙なものを漂わせていた。わたしは彼の横顔を一瞬盗み見た。そのとき、笑っていたはずの彼の顔は、ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニのローマ教皇ユリウス2世霊廟のモーゼのように険しくなっていた。もう一度ショーウンドーの奥の楕円形の鏡に目を移すと、やはり彼は笑っていた。再び、彼の横顔を盗み伺おうとして、視線だけ、それと気取られないように彼の方に向けたら、今度は彼の挑むような瞳に衝突した。